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【vol.5】チホコさん、そして4月8日ふたたび

 

 

「さて、まずはランチですよね。そうだなぁ、近所の安くて美味しいバスク料理のお店か、それともパリでいちばんおいしいクレープのお店に行くか。パリでいちばん眺めのいいカフェもありますよ」

 

その日わざわざホテルまで迎えにきてくれたチホコさんは、わたしが尊敬している友人のひとり、かともえさん(わたしは彼女をニックネームでこう呼んでいる)が「高校時代の親友がパリにいるから」と事前にFBを通して紹介してくれていた女性だ。

 

「長崎の高校を出たあとは都内の音大でピアノを勉強して、卒業後は有名な音楽系の企業に勤めていたんだけど、数年前に声楽を勉強するためにパリに行きました。そういうひとです」。

 

 

かともえさんから貰ったメッセージにはチホコさんについてそんなふうに書かれていて、まるで「ほら、みかち、そういうひと好きでしょ」と言われている気分になる。

 

―かともえさんは確か、わたしよりも10歳ほど年上だったはず。ということは、同級生だというチホコさんも40代。パリに渡ったのは彼女が30代後半のときだろう。

 

「年齢なんて、ただのナンバーだよ」と言うし―それにしたって、本当に年齢が若いうちはそんなこと言われないし耳に入ってこない。だからこのセリフを聞く度に、あ、わたしは本当に若くなくなってしまったんだとあまのじゃくな気持ちになる―、そんな気持ちで生きていきたいと思っているけれど、

 

それでも、ちょうど3日前に34歳の誕生日を迎え、じわじわと自分の年齢が気になってきた身としては、そんな「いわゆる一般的な30代コース」からはみ出した(これ、もちろん褒めてます)チホコさんに会って話を聞くのをとても楽しみにしていた。

 

「わたし、今日は結構がっつり食べたい気分なんですけど、その眺めのいいカフェっていうのも行ってみたいな〜。でも、カフェだと軽食になりますよね?」

 

「そうですねぇ、どうしようかな…。じゃあその眺めのいいカフェはランチのあとにお茶しに行きましょう。そこがモンパルナスにあるので、ランチはその近くの肉料理が有名なお店にお連れしますね。バスク料理のお店もぜひ行ってみてほしいから、あとで場所だけお教えします」

 

きっとこれまでに何度も日本からパリを訪れた友人知人、ご家族の観光案内をされてきたのだろう。チホコさんの提案は完璧だった。

 

モンパルナスまでふたりでぶらぶらと歩く。

 

「パリはどうですか?気に入りました?」

 

「大好きです!もう、思っていた以上に好きになりました」

 

石畳。まだ肌寒くコートに身を包んで街を歩くひとびと。いたるところにある芸術品。NYではデフォルトのようにいた“スタバのグランデサイズを持って歩くビジネスマンたち”も、“ヨガマットを背負って、にぎやかにiPhoneのイヤホン通話をしながら歩く女の子たち”もいない。NYも刺激的な楽しい街だったけど、パリはわたしにとって歩くだけで静かにワクワクしてくるような街だった。

 

ひととひとに相性があるように、ひとと街にも相性がある。あるひとにとってはしっくりくる街が、ほかのあるひとにとっては退屈でしかないこともあるし、あるひとにとってはそれまでとは見違えるようには元気になっていく街が、あるひとにとってはどんどん生気がなくなっていったりもする。

 

わたしは、たぶん、パリが好きだった。

 


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