「行ってみたいなと思ってたんです。でもなんだか行きそびれてて」
モンパルナス墓地を出て歩きながら、わたしは以前、ネットでこの教会について調べたことを思い出していた。そこを訪れたひとたちのなかには「とても気持ちのいい空気が流れていた」というひともいれば「雰囲気が重すぎて苦しくなった」というひともいて、それがわたしを多少、躊躇させていた。由来が由来だけに、自分あるいは大切なひとの病気の奇跡的な治癒を願ってその教会を訪れるひとも多いという。その必死の祈りの横で平常心でいられるかな、というひそかな心配もあった。
「じゃあちょっと場所がわかりづらいので、その前までお連れしますね。帰り道の途中に寄れますし。この時間だともう閉まっていると思いますけど、場所さえわかればまたひとりで来られるでしょうから」。
サンジェルマン・デ・プレにあるパリ最古のデパート、ボン・マルシェのほど近くに、そのメダイユ教会はあるという。
どのくらい歩いただろうか。帰りはボン・マルシェに寄って帰りましょう、右岸の有名デパート、ギャラリー・ラファイエットとはまた雰囲気も客層も違っておもしろいから、と話しながら….
「あ、あそこですよ」とチホコさん。
「んん?あれ、ちょっと待って、もしかして…」
振り返ったその目が、信じられないといっていた。
「みかちさん、開いてる!」
☆☆☆☆
「ここね、やっぱり不思議なところなんです」
チホコさんが興奮したようにいう。
「わたし、何回も色んなひとを連れてきたことがあるし、一緒に来なかったとしても、ここに来ようとしてたひともたくさん知ってるんですけど」
ここが教会?
これは確かに見逃しそうな、通りに面した何のへんてつもない入り口から奥へ進む。教会は奥にあるらしい。
「クローズしているような予定じゃなかったはずなのに、教会自体が閉まってたり、ここまで来ても雰囲気をみて『あぁ、ちょっと入りたくない』っていうひともいるし、ひとりで目の前まで来てたのに入り口が見つけられなくて結局入れなかったっていうひともいるんですよ」
教会ーというより、一見ふつうの建物だ―の前にある、掲示板のようなものをチェックしながら、チホコさんは続けた。
「たぶん、そのとき必要なひとしか入れないんじゃないかな。だって、今日なんてもう19時なのに開いてるし...。ほらこれ、掲示板にも、『この日は例外で遅い時間迄オープンしてます』って書いてある日時のなかにも、今日の日付はないですもん。すっごくラッキー。いや〜、みかちさん、やっぱり何かありますね〜」
わたしの疑い深い左脳は「いやいやいや、偶然だよ、何にでも理由をつけようとしちゃだめだよ」という。
でも、右脳は「そうだよ、だってわたしが来ないで誰がくるの?」といっていた。
ともあれ、まずは教会に入ろうとなかを覗いて、息をのむ。
そこでわたしたちが見たのは、教会を埋め尽くすシスターたちだった。





